【人間区宝さんvol.012】有限会社山添 野村いずみさん

今回の人間区宝さんは10月のJJのイベント「七人の変態~ZADANKAI~」に変態の一人としてお話いただいた野村いずみさんです。インターネットの普及などにより紙を扱う印刷業界はしんどい業界のひとつとよく耳にします。そんな業界を幼少期から印刷会社を経営する父親の姿をみて育った野村さん。

稼業から逃げる為に学んだグラフィックデザイン、10年かかった代表交代劇、そして改革と新たな出会いが野村さん自身はもちろん会社もイノベーションさせていきます。野村さんが様々な体験から気付いたシンプルなこととは?いろいろと伺ってきたのでご紹介します。

DSC_1925

成育公園(通称三角公園)からほど近い場所に野村さんが代表を務める有限会社山添があります。最近になってリノベーションしたという会社の入口と中に入ったところにある打合せスペースがちらり見えています。

DSC_1927
藍色のドアが目印♪

地図ではここ↓



DSC_1926

会社の前からこちらを見るともう成育公園が見えています。では早速お話をうかがっていきたいと思います。

DSC_1884

以前少しお聞きしたことがあったんですが、もともとグラフィックデザインを仕事としてされていたんですか?

野村さん

いえ、先に社会人になって働いていた姉が父に呼び戻されて山添で働いてるのを見て「自分も絶対呼び戻される」と思い、逃げる手段の一つとしてデザインを身につけようとしていました。昼間は山添で働き夜はグラフィックデザインの勉強をしに学校にいってました(笑)手伝うのはいいけど「就職するのはいや!」って思ってましたしね(笑)


(笑)口実だったんですね。でもどうしてグラフィックデザインを学ぼうと思ったんですが?当時流行っていたとか?もともと興味があったとか?

野村さん
当時ハイパーメディアクリエイター高城さんとかが今でいうグラフィックデザイナーみたいな感じで出てきていて一般的には流行ってるっていうほどではないですけど、その辺りの人たちに影響を受けてMACでイカれたデザインをつくる!!みたいなことに私も憧れていました(笑)完全にストリートカルチャーに惹かれていましたね当時(笑)


ええーーーーーそんな風に見えない!!(笑)で実際に通い出してどうだったんですか?

DSC_1886

野村さん
結果的には学校で学んでやってることと山添で業務としてやってたことが一緒だったり、似ていたりして「なんだ、こんなこと日常でやってるやん。デザインと印刷って似てるのかな?」なんて思って肩透かし的な感じでした。私の想像してたデザインの勉強はMACでカタカタしながらオシャレにっていう感じだったんですけど(笑)その授業は2年目のしかもやりたい人は別の時間に受けてねって感じで結局私自身、特に才能もあるように思えなかったですし、一通り学んで卒業というか終了しました。


で、そこからどうなって野村さんが社長になっていかれるんですか?

DSC_1887

野村さん
当時、姉夫婦がメインの営業で働いていて、私はその下で現場作業や工務の仕事をしていたんですね。それが色々あって急に姉夫婦が退社することになり父が持病ももっていることから、とりあえず形だけでも私を代表としておこうって話が上がって登記することになったんです。


えーーーー結構急な展開‼

野村さん
そうですね(笑)まさか!って感じでした。私は結婚して旦那さんを連れて会社を一緒に!という考えはなかったので、やるなら私が山添を一人でやっていくって思っていたので今考えたらよかったのかもしれないですね。ま~覚悟を決めたって感じですかね。


で、その後はガンガン社長業というか今と同じようにやっていかれたんですか?

DSC_1889
活版印刷について色々説明してくれる野村さん

野村さん
いえ、それが名ばかり代表でした(笑)まあ個人だったり中小企業とかでよくあると思いますけど、肩書としては代表になっていましたが、実質は父がまだ代表をやっている状況でしたし、私自身社長業って何をしていいか分からずに今まで通りの働き方でしたよ(笑)そんな中仕事は減るし業績は悪化していて借金もありましたし、父も家に帰っては愚痴をこぼす日々が続いてました。

DSC_1890

私も色々提案するんですが、ことごとく父には反対されるし、家に帰っては愚痴をこぼしてるので「そんな文句言うなら勝手にしたらいいし、やめるならつぶしの効く今のうちに早く会社潰したらいい!」なんてことも言ったこともありました。もう半ばあきらめというか、何言っても一緒やん!みたいな感じになってましたね。

DSC_1888

そんなある日父が従業員をみんなやめてもらって家族だけでならまだやっていけるんではないかっていう話をしてきたので「そんなことするならいっそのこと会社を潰そう」って話になったんです。その時に父が「ほなもういずみの好きにしたらええ」って。で次の日みんなの前で代表の交代を発表したんですよ。


結構すんなりそこはいったんですね!?


野村さん
いやいやそこまでいくのにダラダラ長かったですからね。10年ぐらいかかってますから(笑)

DSC_1893
50年前に山添で使用されていた活版印刷機

継ぐ覚悟を決めてから10年後に実質の社長となり経営するにあたり、業績不振の会社をどう立て直していったんですか?

野村さん
毎年ほぼ決まった額の赤字をだしていたので、その見直しですね。何をするべきかわからないので考えた結果人件費削減しか思い浮かばず個人面談をして基本的にボーナス廃止の給料減額を行い、それでも残ってくれるなら一緒にやっていこうみたいな話をしたと思います。



さらっと言いましたけど、結構きついことやりましたね!!

野村さん
まあでもそれをやらずに今まで通りにやってるとそれこそ会社の寿命も縮まるだけですから。

DSC_1895


でもそれだけだとプラスには転じないですよね?経費削減しても限界があると思うので。売上を上げる為に具体的にどういった事をされたんですか?


野村さん
とにかく仕事を拾いまくりました(笑)拾いまくったらなんとかなるんじゃないかと。でもそれでもやっぱり仕事は減っていくので結局私がしたのは人に会うっていうことでした。今までは会社と知ってる取引先、友達、家族っていうホントに狭い世界にいたんですけど、そうじゃない人たちに色々会いに行ったり話を聞いたりしたりして自分自身で人脈を築いていきました。仕事関係ないといったら語弊があるかもしれないですが、そういったこと抜きにして飲みにいったりできる交友関係が広がっていくのがすごく楽しかったんです。


一見すると人に会う事や関係性を築いていくことってすぐに仕事につながっていないし、人によっては遊んでるだけやんっていう風に見らそうですがその辺りはどうでしたか?

DSC_1902

野村さん
確かに全然そのこと自体は仕事に繋がっていないんですけど、知り合いが増えることで自分にない発想を知れたんですよね。デザイナーさんとか様々な人たちがやってることを知って見てるうちに「デザインいいなあ~」とかネットショップやってる人見たら「ホープページつくってネットでやってみたいな~」とか。以前なら私自身も「取引先に知り合いしかいてないようなうちの会社のホームページとか誰が見るねん?」って思ってましたけど、そういう環境の中に身を置くことでインターネットでの集客を考えたり、封筒に凸凹を利かせた活版で印刷してみたらどうか、とか考えてるうちに見えてきたというか。


DSC_1903

そういう友人が増えていく中で知人のデザイナーから「活版やってるの?」と聞かれることが増えて、少しづつ紹介で仕事が入りだしたんですよね。当然のようにあり古臭いと思っていた活版が、人に会うことで刺激とヒントをもらって活かせる宝になり、やりたかったネット事業をはじめることができた。自分がやりたいことを思って考えて、また人に相談したり話したりして広がって生まれて、、、結局、「自分で考えてやりたいことをやれば実現できるんや」って体験をしたんです。だって自分の発想の中にないものって実現できないし、できないと思ってる事って絶対できないじゃないですか。できないって思ってる事はやらないですから。だから私にもできるんかも?っていう風に思えるようになりやってみたらできたっていうのは大きいと思います。

DSC_1906
活字を見つめる野村さん。なんだか楽しそうw。

うわ~~~めっちゃええ話でましたね!!!やっぱりいい出会いの中でご自身の発想が広がってやっていくうちに現実が追い付いてきたというか実現していったんですね!!では全然活版について聞けてないんですが、最後にまとめてご紹介していただけますでしょうか?

DSC_1910

野村さん
活版印刷は伝統工芸とは違い、特別な技術や美を探求し伝承するようなものではないと思っています。ですが、活字を拾う文選、文字を組む組版等はやはり熟練した職人さんが必要です。職人さんはおろか、活字鋳造所も無くなりつつある今、印刷の原点であり、私にとっては父の遺産でもある活版をこれからも残していけたらと思っています。

そして独特の風合いを持つ活版の良さを知ってもらい印刷の面白さを体験してもらうことで、しいては手間をかけた人の手を感じるものの良さ、時の生み出すものを大事にする心を育むことで社会に貢献したいと思います。

大それたことを言っちゃいましたが、まずはお気軽にお越しいただき活版に触れていただければと思います。お子様も大歓迎ですよ♪





なるほど~今日はお忙しい中ありがとうございました!!


DSC_1921

野村さん
こちらこそありがとうございました!自分自身いろいろと頭の中整理することが出来ました♪


取材を終えて


お話を伺っていると特別な話ではなく、どこにでもありそうなエピソードが出てきて共感できる場面がいくつもありました。やりたいことをまずはやってみる!やりたいと思うような事がなければいろんな人に会いにいったり、話を聞いてみる。その中で自分にもやってみたいことやできないと思っていたことが、ふいに「自分にもできるかも」なんて思える瞬間がでてくるかもしれませんね。今回は活版印刷について書くことができなかったので、活版印刷に興味ある、話を聞いてみたいって方はタイミングもあるでしょうけど山添に問い合わせてみてください♪面白いですよ~JJでもまた機会があれば記事にしてみたいと思います!! ちなみに今月末に野村さんが活版印刷について語ってる内容のTV放送があるそうです♪

DSC_1909
このチラシも山添さんで製作していただきました。



ありがた~い一言

「自分で考えてやりたいことをやれば実現できる!!」by野村さん